高山がモデルとして活動を始めてから一年経とうとしていた、ある日のことだった。

「せやから、俺はやってへんって言うてるやろ!」

 いつもと何ら変わらぬホープ社屋に、怒号が弾け飛んだ。

「嘘つけ、どう考えてもお前しかいてへんやん!」

 怒号の主である高山を突き飛ばし、対立する形で取り囲む社員の一人が冷たく言い放った。

 社長室で、高山は壁を背にし息の掛かった社員数人に取り囲まれていた。

 無数の冷たく痛い視線が注がれる。ある者は怒り、ある者は蔑み、感情は違えど高山を見下していることだけは共通していた。

 しかし高山も負けていない。たった一人でも怯まぬという意志は金剛石よりも堅く、その目に憎悪と怒りの焔を燈して睨んだ。

「さ、正直に言うんや。お前がやったんやろ? うちの社長は慈悲深い方やから、今なら許してくれるって?」

 もう一人の社員が、一歩近づくと高山の頬を触って冷たく、やくざが一般人を脅すように言った。

 そこに嘲笑も混ざり、たまらなく屈辱的だった。

 高山は自身の怒りのエネルギーが無限大にまで増幅されるのを感じ取ると、勢いよく手を払った。

 全員の視線が一斉に強まる。その中でも一際強い怒りの視線を注ぐ者が二人。

 一人はひょろひょろとした体格だが貫禄を感じさせる、立派なスーツに身を包んだ男。もう一人は対称的に太った体格に、全身を趣味の悪い宝石や貴金属類で飾った女性。

 男は社長で、女性はその妻である。

 

 事の発端は、今から二時間ほど前に社長夫人が社屋を訪ねた時まで溯る。

 同じ社長夫人の仲間たちとお茶を嗜んだ後は、愛する夫の元へと。

 社長室を訪ねて夫との暫しの談笑後は、社員を労う為に共に社内を見回る。

 少しの間だからとブランド物のバッグを置いて。財布等の貴重品が入っているにも拘わらず無防備に、施錠も防犯対策も何も無く。

 それが、嵐を巻き起こす鍵になると誰が予測できただろうか。

 一時間ほど経って社長室へ戻った時、夫人は自身の持ち物の異変を感じ取った。バッグと同じブランドの、財布が無くなっていたのである。

 社長も、夫人も、暫し呆然としていたがすぐに正気を取り戻し、社員も巻き込んでの捜索に踏み切った。

 応接室、給湯室、事務室、資料室……社内全部を見回っても財布は出てこない。

 社員全員に聞き込むも、皆首を横に振るばかり。

 社長も夫人もその場にがっくりと膝を落とした。その時だった。

 一人の社員が、こう証言したのである。

「そういえば高山くんが、社長室の前を通っていましたよ」

 

 その後、喫煙所で一人煙草を吸っていた高山は社員の一人の無理矢理腕を掴まれ、訳も分からぬまま社長室へと連行された。

 そこで初めて財布紛失の事実を聞かされた。その疑いが自分にかけられているという屈折した事実と共に。

 財布の行方を知らない高山は無実を主張するも皆聞く耳持たず、現在の状況が成立したというわけである。

「確かに俺は社長室の前を通った。けど、中には入ってへん!」

「嘘つけ!」

「嘘なんか言うてない!」

「けどあんたも強情やな。さっさと吐いてまえばええだけのことやのになあ」

 しばらく監督役として陣取っていた社長夫人が、ずんずんと高山の前に歩み寄る。

 そして蔑みの眼差しと共に、笑った。その笑みは、童話に出てくる意地悪な継母をそっくりそのまま写したと言える。

 童話の主人公はこんな時、悲愴に満ちた顔を俯かせてただひたすら耐えるしかない。

「違う言うてるやろ! この、クソババア!」

 だが高山は違った。歯を食いしばって、その笑みを睨み付け飛び掛った。しかし寸でのところで夫人のそばに控えていたガタイのいい社員が前に立ち塞がり、結局取り押さえられてしまった。

 社員に取り押さえられている高山の足を、夫人は鋭いヒールで踏み付けた。だが高山は苦痛に耐え睨み返す。恨みの焔を紅蓮の業火へ変えて。

 それが、夫人には余計に気に食わなかった。

「全く生意気やね、元不良のくせに。あ、そうか。不良やから生意気なんやねえ。このクズが。何であの男もこんな不良の疫病神なんかをスカウトすんねん。あの時あの男と一緒にあんたも追い出しておけばよかったわ」

 あの男、とは永井のことである。

 永井は二ヵ月ほど前にホープから他の芸能事務所へとヘッドハンティングされた。あくまで表に流れている情報を事実とすれば、の話だが。

 だが裏では、永井の存在を気に食わなかった夫人が人事に手を加え、何かと理由をつけてクビにしたという噂も流れている。

 ここで夫人自身が語っているのだから、裏の噂の方が事実だと。

 思いがけない真実を知った高山の、怒りは極限へと高まる。

「あの男を追い出しておいて正解やったわ。あの男もあんたも気に食わん。あんたも追い出したるわ、このクズが。クズの仲間はクズでしかないんや」

 クズどもが、と最後に付け足した。その時、高山の心が真っ白になった。

「てめえ!!!!!!」

 許さない許さない許さない許さない許さない。

 手負いの猛獣そのままに飛び掛った。ボクシング部時代のテクニックもない無謀の拳で、夫人の左肩を一発殴ったところで再び社員に取り押さえられてしまった。

「畜生! 離せ! ぶっ殺したる!!!!!!」

 夫人は傷跡の残った左肩を擦りながら、ただならぬ蔑みと憎悪を高山に向けた。

「全く、クズの分際で何やねん。この私に手を上げるなんて!」

 興奮覚めやらぬ夫人は、息も荒くヒステリックに言い放った。

 そこへ、まだ状況を見守るだけだった社長が前へ、夫人の隣に立つ。

「ま、まあ落ち付きなさい、ね? 高山くんも頼むからここで自首してくれ。このホープから犯罪者を出したくは……」

「あんた! ちょっと黙ってて!」

 そして夫人や高山を宥めようとするも、その夫人に強く出られてしまいすごすごと引き下がるしかなかった。

 それはいつもの、かかあ天下の二人を見ているようで。普段なら笑いが起こっていただろう。

 しかし今は笑いなど別次元のものでしかない。ここにあるのは険悪で、重い空気だけだった。

 夫人はすぐに興味を弱々しい夫から高山へと移す。取り押さえられてもなお、憎悪と怒りの業火は鎮まることはない。

 ――本当に、気に食わない。

「もうこうなったら、ボディチェックしかないわね。自分の立場ってモンを分からせんねん」

 やれ、と夫人に命令されると取り押さえていたのも含めた社員数人が、高山の体を触り出した。

 抵抗を試みるも、理性を失った今では敵う筈も無く、されるままになるより他ならなかった。それでも、自身に残されたプライドに懸けて諦めたくなかった。

 やっとのことで取り押さえられていた右腕を動かすことに成功した時には、今度は社員の手が白いシャツやジーパンに伸びていた。乱暴に捲られたシャツのボタンが飛び、キャラメルのように割れた腹筋が露になる。無理矢理下ろされてしまった為にジーパンの金具も壊れてしまった。

 目の前の敵をやっつける為に伸ばした右腕を、今度は自己防衛の為に使うもあっけなく自身を取り押さえていたガタイのいい社員に抑えられてしまった。更に敵は用心深く左腕も抑えている。完全に抵抗手段を奪われてしまった。しかもその隙にもボディチェックは進む。

 肉体が駄目なら精神だけでも。この場、そして世界中の人間に怒りの業火と恨みの冷たさを込めた視線をぶつけた。しかし。

 自分のそれ以上に、夫人は冷たかった。高みの見物といわんばかりに自分を見下し笑っている。魔女。自分を見る目と微笑の冷たさは魔女のそれ以上に強かった。

 溜まりに溜まった屈辱は、残された力と怒りの業火をも鎮めてしまった。

 右腕も、左腕も、全身を動かさず誰も睨まない。もうどうにでもなれと、やけっぱちになるのみ。

 夫人は勝利を確信し、笑みを強めた。世界で一番、残酷で冷たい笑みを。

 高山が目を瞑ったその時、社長室の入口より迫力のある声がかかった。

「これは一体?」

 たった一人を除いたほぼ全員が驚き、声のした方向へと振り向く。

「伊藤くん……」

 代表する形で、夫人が声の主もとい伊藤の名を呼ぶ。

 その目には冷たさは無い。弱々しく艶めいた女を演じ、オーディションに行っていた為に事情を知らぬ伊藤をも味方につけようと企む。

 どこまでも強かな女だと心の中で自嘲しつつ、事実を伝えようと口を開く。

 しかしそれより前に輪の中に割って入った伊藤が既に状況を把握していた。みるみるその目が怒りに満たされていく。握り締めた拳がわなわなと震えた。

「お前ら……これは一体どういうことや!」

 怒りはマグマの如く噴出される。興奮に顔を真っ赤にし、事実を聞き出そうとすぐ近くにいた社員の一人を締め上げた。地獄の悪魔を思わせる形相に社員は目を潤ませながらも、声が掠れながらも事実を紡ぎ出す。

 社長夫人の財布紛失も、その容疑が高山にかかっていることも、今までの喧騒から現状に至るまでの経緯も、全て。

 伊藤はとりあえず、社員を解放した。社員は完全に腰が抜け、その場に尻餅をついたきり震えるままだった。その震えは一生治まらないと、感も鋭く自覚していた。

 もっとも、火に油を注いだも同然に勢いを増した怒りに震える今の伊藤を見ればどんなに鈍感な人間にもそれは分かることだったが。

「高山を恨みたくなる気持ちはよう分かった。せやけど、これはいくらなんでもやり過ぎやろ! ただのリンチやないかい!」

 誰を対象とするでもなく、伊藤の怒りは強大な鉄槌となって襲う。

 怒りの視線を振り撒いたまま高山に近づき、取り押さえていた社員を退かせて自分のジャケットを被せる。

 それは、まだ瞑られていた高山の目をも開かせた。改めて自分の体を見れば、一回りほどサイズの大きいジャケットが包んでいる。それは、とても暖かくて。

 その時、初めて高山は他人に縋った。

 伊藤は社長にずかずかと詰め寄った。あまりの迫力に社長が冷汗混じりに後退してしまっても、逃がさないという意志は強い。

「だいたい社長、あんたもあんたや! 人の上に立つ人間であるはずのあんたも、何で一緒になって傍観しとんねん? こんなんが許されるとでも思っているんですか?」

「ま、まあでも、やれて言うたのはわしやなくて家内やし……」

「人のせいにするな!」

「あんた、人の夫に何してくれてんねん!」

 あまりの無責任さに憤り社員同様に締め上げようとしたその時、間に社長夫人が割って入った。目は既に本来の強い彼女に戻っていた。

「あんた、社長やで! ただの一モデルが、社長にようそんな暴力が振れるな!」

「まだ何もしてへんし、それに社長もクソもあるかい! そもそも元凶はあんたって話やないか!」

「犯人を懲らしめるためや! そんなん当然やん!」

「なんで高山が犯人って決めつけんねん! 高山がやってないって証拠はない。でも、高山がやったって証拠もないやろ!」

「元不良だっていうことだけで十分や!」

「そんな……そんなん根拠が全然ないやないか! それだけで人を疑うなんて! それにこんな、非人道的なことを……!」

「あんな泥棒に、人権なんて無いのも同然や!」

「この……!」

 女性に手を上げるなんて。目の前にいるのは卑劣極まりない人間だとしても。

 それは、普段の伊藤なら抱ける思考。しかし、極上の怒りですっかり取り払われている。

 伊藤は拳を震わせ、脳からの指令を果たす為に振り被る。

 それから程無くして夫人の左肩に右ストレートが炸裂した。しかし、その拳は伊藤のものではない。伊藤はただその場に立ち尽くすのみだ。

 拳の主、高山はすかさずファイティングポーズを構える。人より短かった高校生活で身につけたテクニックを甦らせて。

 彼の中に、巨悪に立ち向かう勇気が再び戻ってきた。

 夫人は少し動かすだけでも強い電流が迸るほどの痛みを抱えた左肩を庇い、半歩ほど後退する。

「く……この、覚えてらっしゃい!」

 どうせあんたが犯人に決まってんねから。夫人は捨て台詞を吐き一目散に逃げていった。愛する妻を追う為に社長も出ていく。社長夫婦もとい権力に忠実な社員数名も従う。

 残った社員も皆、我が身が一番可愛いからと出ていってしまった。

 残ったのは、二人だけだ。

「伊藤さん……」

 一気に力が抜けた。

 夫人に最後の一撃を食らわせた時とも、敵対する社員に取り囲まれた時ともまた違う、弱々しい表情と口調を見せる。

 そんな高山に、伊藤はただ無表情に話すのみだった。

「大丈夫か? ったく、どうしてあんな卑劣極まりない連中もこの世に存在せなアカンのやろな」

 その労わりの言葉にも、高山は素直に首を縦に振ることができた。

 しかし、混乱は前にも増して勢い良く膨張するばかりだった。

 それは、高山自身にも止めることができなくなってしまっていた。

 

 それから、夫人が寄った喫茶店から電話がかかったのは三十分も経たずしてのことだった。

 社屋の電話番号が書かれたホープ社長名刺入りの高級なブランドの財布の忘れ物があったという。周りに目をくれることなく、夫人は慌てて出ていった。

 更に五分ほど経ってから、安堵に涙しつつ大事そうに財布を抱える夫人の姿が社長室にあった。

 社長もまた、百年振りに敵国の支配から逃れられたかのような心地に、胸を撫で下ろした。周りの社員たちも然り。

 しかし、その中にも怒りと緊張を鎮められない人物がまだ二人もいた。

「さあ社長夫人さん」

 その内の一人は、ポンと夫人の右肩を叩いた。ぎくりと一気に安堵の色が引き、冷汗が流れる。

「高山に謝ってもらおか?」

 絶対逃がさない。ガッと右腕を掴み、ギリギリと強めた握力だけで言うのだった。

「な、何でやねん。もう終わったことやしええやんか」

「終わったからこそ、やないか。立派な大人やろ? けじめはつけなアカンのとちゃうん?」

「く……」

 勝ち誇った笑みでずいと迫る伊藤と、屈辱に打ち震える夫人の姿がある。夫人の口が震えながらも開かれる。伊藤は勝利を確信し、笑みを強めた。自由を勝ち取ることに成功した、かつての偉人のような。

 しかし次に出されたのは「あ!」という大声だった。突然に驚いた伊藤の腕力が緩む一瞬の隙を夫人は逃すことなく振り解き、またも一目散に逃げ出してしまった。伊藤が気付いて追った時には既に、夫人の姿はどこにもなかった。

 子供かい。と怒りを通り越し、呆れるしかなかった。伊藤は大きく溜息を吐く。

 しかし次の瞬間には、そんな卑怯者にはもう興味はないと言わんばかりに身を翻した。

 その瞳に宿すのは炎でもなく、氷でもなく。見ているのは緊張を鎮められぬままだったもう一人の人物――高山だった。

 伊藤に見られ、高山の緊張はより強まっていく。何故か、顔が強張っていった。

「あ、あの……」

 唇が震えながらも、舌足らずに言葉を紡ぎ出していく。

「さっきは、その……」

 あの一言が言えれば。その思いは強まっていくのに。しかし、表に出すことができない。

 一つは、社内三分の二の人間がここにいるという事実。もう一つは、ここ数年それを言い慣れていないという、照れが邪魔をして。そして最後の一つ、限界まで膨張した混乱が破裂し、伊藤へ抱く感情が分からなくなっていた。

 特に最後の一つは大きかった。

 自分は伊藤の家に居候させてもらっている。しかし、自分は全く稼ぎを入れていない。おまけに伊藤がバイトとモデルの仕事とで汗水流して稼いだ金にも手を出す始末。

 しかし、伊藤は何も言わなかった。絶対分かっている筈なのに。そして、今も。

 本当ならあの時も、家での実態を格好の餌として夫人と共に責めるという最適の選択肢があったはずなのに。

 伊藤さんの真意が分からない。自分の気持ちも分からなくなっていく。

「今から次の仕事の打ち合わせに行かなアカンねん」

 混乱にまごつく高山を見かねたのか、伊藤が口を開いていた。

「時間厳守やからそんなもたもた話すような奴に付き合うてる暇なんてない。今日の晩飯に鍋やるから、続きはそん時にでも聞かせてくれ」

 混乱に瞳が震えていても、自然と高山の首は縦に振られていた。返事も聞かずに相手は姿を消していたのに。

 ――格好いい。

 やっと分かった。自分が求めていたものが。伊藤さんの真意が。

 『信頼』――伊藤さんは自分を信じてくれていた。そして自分も心の底では伊藤に信頼を寄せていたのだと。

 両親、学校の友達、つるんでいた不良グループの連中、繋がった女たち――。

 この十九年と少しの人生の中で本音や信頼をぶつけられた相手がいただろうか。相手もまた、自分を信じてくれていただろうか。きっと、否、絶対に――。

 ――この人は男だ。

 その時、初めて高山は心を入れ替えるということを知った。

 

 

 それからの高山は見違えるように真面目に仕事に取り組むようになっていった。今までに培われていた美貌と魅力とで、周りのモデルたちの手強いライバルへと成長していく。

 とはいえ、お調子者の性格までも変わってしまったわけではない。休憩中にはギャグを言ったりおどけたりしてスタッフや同業者の緊張を解す。撮影に欠かせない存在へも成長していった。

 しかし同時に同期や後輩の腰を触ってスキンシップを深めるという、伊藤の胃痛の原因へも成長していったという。

 二年後には藤井という二つ年下の、更に三年後には最年少で当時二十歳になったばかりの森下という可愛い後輩もできた。高山は二人をとても可愛がった。かつて伊藤が自分にしてくれたように。もちろんスキンシップも忘れなかった。

 二十三の春に、一人暮しを始めた。収入が安定した為に。完全に自立する為に。そして、伊藤に梓という彼女ができたことも受けて。最後の理由は、本人には気を遣って言わなかったという。

 

 そして、人生二十六回目の春を迎えた。

 この日も、いつものようにナンパに精を出す為に難波へと繰り出していた。森下と共に。

 しばらく二人でアタックを繰り返すも成果は得られず、別行動に移した。

 高山は一人、獲物を狙う凄腕のハンターが如くターゲットを選別しつつ歩いていた。

 モデルとして成長してもナンパは止められず、こうしてオフになる度に街に繰り出し、ナンパに精を出していた。元々の魅力もあって成功率は高かった。しかし。

 どんな美女が隣にいても、心の底では一人ぼっちだった。何故? といつも考えていた。

 答えの出ない問答に一人影で苦悩し、複雑な洞窟に迷いこんでいた。

 しかしそれも、もうすぐ出口へと導かれることとなる。そして、今度はそれ以上に深い深い迷いの樹海へと足を踏み入れることとなる。

 その角を曲がった横断歩道で、彼女と出会うことによって。